A Child with Autism : 自閉症である前にひとりの子どもである。

自閉症 もうひとつの見方

UNIQUELY HUMAN 日本語版
『自閉症 もうひとつの見方:「自分自身になるために」』

自閉症のある人とその家族に耳を傾けることで見えてきた
みんなが共に歩みを進めるためのヒント
自閉症のある人とその家族に対する理解と敬意を深めるための1冊

uniquelyhuman

「自律と自己決定に向けて」がメインテーマの
2017年国連世界自閉症啓発デー推薦図書

自閉症理解のパラダイムシフト

なぜ体を揺らすの? なぜ列車について話すのを止めないの? なぜ映画のセリフを何度も何度も繰り返すの? なぜブラインドを執勧に調節するの? なぜチョウに怯えるの? なぜ天井のファンをじっと見るの?

専門家の中には、単にこれらを「自閉的行動」というカテゴリーに分類する人もいる。「なぜ」 と問うことなしに、回転するのを止めること、手をヒラヒラさせるのを止めること、繰り返すのを止めること、専門家と親がこれらの行動を減らしたり、消去したりすることを1番の目標にすることは、本当に多い。

自閉的行動のようなものはない。これらはすべて人間の行動であり、人の体験に基づく人間の反応である。

もし、これらの行動を取り除くことに成功したとするならば、専門家や親が本当にしたことは、その人から対処方略を奪ったということである。よりよいアプローチは、そのような行動の価値を認め、必要に応じて、十分に整った状態を保つための他の方略を教えることである。

行動を、その目的を十分に理解することなく取り除こうとするのは、役に立たないということだけではない。それは、また、個人に対する尊厳を欠いていることを示している。さらに悪いことに、自閉症のある人の人生をより難しくする可能性がある。

支援するために、自閉症のある子どもを変えたり、直そうとしたりする必要はない。理解しようと努め、それから私たちの行動を変えることに取り組む必要がある。

自閉症のある人に学ぶ

「自閉症スペクトラムであるか否かにかかわらず、私たちは皆成長する。私たちは自分たちに何ができるかを聞き知る必要がある。何ができないかではなく

家族に学ぶ

自閉症のある子どもを育てる歩みの早期において、親はしばしば力を奪われどうしたらよいか分からなくなることがある。子どもの行動に当惑、混乱し、どこを頼ったらよいか、誰を信頼したらよいかが分からない。親、特に医療機関や教育行政に関する経験が少ない親は、自分たちには選ぶ権利がなく、見下すような態度や横柄な態度をとる専門家に対処することは、そのような子どもを育てるのに必要な一部であると思い込んでしまう。

そうではない。親も子どもも、どちらもより良いものを受けるに値する。

「私たちは多くを求めていない。管理者や専門家、親族に対処するとき、私たちはただ親として尊重されること、自分の子どもが尊重されることだけを求めている」

 

目次

イントロダクション 自閉症のもうひとつの見方

 

第Ⅰ部 自閉症を理解する

第1章 「なぜ」と問う

調整不全という困難

対処方略と調整行動

調整の要素としての人

行動を理解することの重要性

どのように大人は調整不全を引き起こし得るのか

耳を傾けることの力と信頼を築くこと

 

第2章 耳を傾けること

エコラリアに対する見方を変える

エコラリアを理解するようになった経緯

コミュニケーションの代替手段

家族特有の言語

学習方略としてのエコラリア

耳を傾けることはコミュニケーションを促す

 

第3章 熱中

熱中を足場にする

熱中を呼び起こすもの

洗車場の王様と注目に値する情熱の物語

つながりを築くために興味を生かす

人に対する熱中

熱中がトラブルの原因になるとき

「時と場所」を教えること

強みを築くこと

 

第4章 信頼、おそれ、コントロール

信頼の障害

身体への信頼

世界への信頼

人々への信頼

おそれの役割

子どもがおそれを克服するのを助ける

コントロール おそれと不安に対する自然な反応

どのように子どもはコントロールを働かせようとするのか

関係性におけるコントロール

信頼を築く

 

第5章 情動的記憶

情動的記憶の影響

いかに記憶が行動を説明するか

あらゆることが引き金になり得る

PTSDから得られる教訓

どのように情動的記憶が問題かどうかを見分けるか?

情動的記憶への対処の支援

肯定的な情動的記憶を創出する

 

第6章 社会的な理解

社会的ルールを学ぶことの困難

社会的状況を読むことの難しさ

社会的ルールを教えることの限界

ルールに従うというのは紛らわしいことでもある

直接的であることの重要性

誠実さが最善の策とは限らない

誤解のストレス

社会的理解と学校

情動を理解する

誤った情動の教え方

社会性を教えるということ、そのゴールはどこなのか

暗黙の了解のもつ役割

 

第Ⅱ部 自閉症と生きる 

第7章 「イットをつかむ」ために必要なこと

実践における「イット・ファクター」

「イットをつかんでいる」先生

イットのない人との遭遇

★イットのない人は「欠陥チェックリスト」思考をする

★イットのない人は子どもよりも計画に注意を払う

★イットのない人は子どもの可能性ではなく、子どもの評判に注目する

★イットのない人は支援するよりもコントロールしようとする

★イットのない人は親の希望や夢に無関心である

自分の役割を知ることの重要性

 

第8章 仲間から得られる知恵

親はエキスパートである

自分の感性を信じ、直感に従うこと

コミュニティを見つけること

楽観的であること

信じるものをもつこと

自分の気持ちを受け入れて表現すること

攻撃的でなく、適切に主張すること(その違いを知ること)

価値ある戦いを選ぶこと

ユーモアを見出すこと

敬意を求めること

エネルギーをどこに向けるか

 

第9章 真のエキスパート

ロス・ブラックバーン「人付き合いはしない」

マイケル・ジョン・カーリー「私たちは自分たちに何ができるのかを聞き知る必要がある」

スティーブン・ショア「彼らは私を受け止めてくれた」

 

第10章 長期的な視点

ランドール家の人々「チャンスを与えられれば、アンディはそれによって進むのです」

コレイア家の人々「マットはいかに生きるかについて教えてくれます」

ドミング家の人々「私たちは直感に従うべきです」

カナ家の人々「実現させるために前面に立たなければならないのです」

 

第11章 英気を養う

回復という疑問

家族が違えば、夢も異なる

スモールステップ、視点の切り替え

楽しみ・喜びと自己感、それとも学業の成功?

自己決定の重要さ

 

第12章 多くの人が寄せる質問

★高機能自閉症か低機能自閉症かどう識別するのか? アスペルガー障害についてはどうか?

★自閉症のある子どもを助けるための好機は5歳で終わると聞いたことがある。その後では遅すぎるのか?

★自閉症のある人の中には、多動のように見える人もいれば、無気力なように見える人もいる。それをどう説明する?

★自閉症のある子どもを助けるためにできる最も重要なことは何か?

★人懐っこい子どもも、まだ自閉症をもっている?

★子どもが人前で奇妙な行動を示しているとき、知らない人からの刺さるような視線に耐えるのがひどくストレスである。どうすべき?

★子どもに自閉症があると伝えるのに最適な時はいつか?

★自閉症のある子どもに「自己刺激」をさせることは間違いか?

★通常のクラス、固定式の特別教育のクラス、あるいは私立学校、自閉症のある子どもが学ぶのによりよいのは?

★セラピーが多すぎるというようなことはあるか?

★自閉症のある子どもを教えようとする気のない、準備不足の先生やセラピストにどう対処したらよいか?

★話すことに支障のある多くの子どもは、代わりにiPadや他の機器あるいは絵画シンボルシステムやサイン言語などのローテクの選択肢を使ってコミュニケーションを学ぶ。それは話すことを学ぶのを妨げないのか?

★きょうだいは自閉症のある子どもの人生においてどんな役割を果たすべきか?

★自閉症は離婚につながるか?

訳者あとがき

本書は、2015 年8 月にアメリカで出版された、バリー. M. プリザントとトム・フィールズーマイヤーの著作『Uniquely Human: A Different Way of Seeing Autism』を翻訳したものである。

エコラリアや常同行動などの「自閉的行動」に意味があることや、自閉症のある人に対する有効な支援方法については、書籍やインターネットに今では多くの情報があり比較的簡単に知ることができる(情報が多すぎるが故の難しさもあるけれども) 。本書の“ ユニーク” なところを挙げるとすれば、それらを「自閉症」という視点からではなく「一人の人間」という視点で一貫して描写していることである。自閉症のある人とその家族に敬意を払い、自閉症のある人とその家族に学び続けてきた著者が具体的なエピソードを通して、その視点の有用性を伝えてくれている。

本書は、自閉症のある人を異常者と見なすのではなく、人間の多様性の中で自閉症のある人を捉えている。また、欠けているところを直されるべき存在と見なすのではなく、ひとつのまとまりをもった人として成長していく存在と捉えている。そして、周りの人に変わることを求め、周りの人が変わることにより自閉症のある人も世界との結びつきを広めたり深めたりしながらその人らしく変わっていくことを示している。自閉症のある人も周りの人もともに人生を歩んでいくための自閉症観、人間観を提供してくれている。

ニューロダイバーシティを支持する当事者が用いる標語に「Don’t dis my ability. ( 私の力を否定しないで) 」という言葉がある。disability ( 障害) という単語の中にmyを挟むことで、綴りの上でも“障害” という言葉を解体している面白い標語である。

この標語を利用して、自閉症支援の二つのあり方を説明することができる。一つは、自閉症のある人が外界とかかわろうとしたり適応しようとしたりするための力( ability : 例、エコラリアや常同行動) を否定し(dis) 、すなわち障害(dis + ability = disability) と見なし、障害をなくそうとする支援である。もう一つは、外界とかかわろうとしたり適応しようとしたりするための力をまず認め、それに協力したり、応じたりする支援である。言うまでもなく、本書は後者のあり方を提示していて、支援をするために自閉症のある人をいったん否定する必要は必ずしもないということを教えてくれる。

これは、もちろん、捉え方によって子どもの困難がなくなるという幻想を与えるものではない。後者の捉え方による支援が、極めて実際的なレベルで自閉症のある子どもの発達や学習や参加を促したり、QOL の向上に寄与したりすることは、本書で描かれているとおりである。

また、「自閉症は個性だからありのままでよい、積極的な支援は不要」という考え方とも異なる。むしろ、本書は、「障害であれば支援が必要、個性であれば支援は不要」というように、支援する側の認識や前提が狭まってしまっていたことに気づかせてくれる。

ここで問われているのは、“ 支援” のきっかけや意味なのである。少し簡単な例で考えてみたい。よちよち歩きの子どもがソファの上によじ登ろうと頑張っているのを見て、あなたはお尻を軽く押して支えるという“ 支援” をしたとする。そのとき、あなたは「登ることができず困っている」と思って支援するだろうか。もっとシンプルに「登りたい」のだなと子どものニーズを直感的に把握して支援するのではないだろうか。

自閉症のある子であれば、例えば、「コミュニケーションの障害があって困っている」「情動を調整できずに困っている」「見通しをもてずに困っている」と捉えて、“ 救いの手を差し伸べる” ような支援もある。もう一方で、子どもは「何かを伝えたい」「落ち着きたい」「見通しをもちたい」というニーズを満たそうとすでに行動していたと捉えて( 自閉症のある人が人聞社会を直感的に把握することが難しいように、私たちもまた自閉症のある人の行動を見てそのニーズを直感的に把握することは難しいけれども) 、その試みに“ 協力する” ような支援もある。プリザント先生が積み重ねてきたのは、自閉症のある人のユニークな試みを認め、協力する支援だ、ったといえる。両者の“ 支援” は重なることも多いけれども、本書を読むことで、支援のきっかけや意味が「困難があるなら助ける(それゆえに困っていないなら助けないという意識を暗に含む) 」を越えて、「ニーズに協力する」に広がることが期待される。

もう一つ、自閉症の捉え方について、自閉症のある人は人類の進歩に必要不可欠だったという理屈で( 時に、自閉症があったと思われる偉人を例に挙げて) 自閉症を肯定的に捉えようとするものもある。仮に、それが事実であったとしても、今を生きていて、困難を感じている人にとっては何の慰めにもならないし、そのような人類の進歩のための手段としての肯定や、有用だから認められるという条件付きの承認は、むしろ個人の尊厳を奪う。本書で訴えているのは、人間の自閉症という側面を肯定的に捉えるか、否定的に捉えるかという、コインの表裏のような話ではなく、自閉症のある人をそのままにひとつのまとまりをもった存在として捉え、一人ひとりの試みや感じている世界を認めることによる、尊厳の回復である。

著者同様、訳者一同、すべての自閉症のある人とその家族が理解と敬意を得ることが当たり前となるよう願うとともに、本書がその一助となれば幸いである。

紹介文へのリンク

Uniquely Humanを読む ― ツイッターでおなじみダイス先生(@dicegeist)による紹介記事

自閉症 もうひとつの見方 ― ツイッターでおなじみオクシー先生(@OQCeeee)による紹介文

【良書紹介】発達障害への見方を根本から変えてくれるインパクトのある本たち ― ツイッターでおなじみ村中直人先生(@naoto_muranaka)による紹介記事

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